2025年6月13日夕刻、年金改革法案2025が成立しました。いわゆる「基礎年金の底上げ」を付記する形でようやく成立にこぎつけた形です。在老、社保適用拡大、遺族年金の改正(本当に改正か?)等々、少子高齢化による年金財政の悪化を支える形で盛りだくさんです
さて、私の分野である企業年金についても大きく変わります。一言でいうと「確定拠出年金パワーアップ2025」なのですが、個人的につけている副題は…
選択制DC抹殺計画
マッチングの逆襲
現時点でも採用者数が断トツの掛金プラン「選択制DC」ですが、様々な観点から毀誉褒貶が雨あられのように降り注いできます。DC法が想定していなかったプランだけに、所々でDC法とミスマッチになり、あるいはDC法が「よかれ」と思って規定している内容が裏目に出たり…と採用時は留意事項のオンパレード。また、一番の懸念事項は「額面給与が減額されること」での「将来の年金給付額の減少」です。販売する側の対応も様々で、細かく案内する金融機関もある一方で、ざっくりとした案内しかせずに「大丈夫かな?」と思うこともあります。関連して、選択制DCが世の中に流布しはじめたころから金融機関との提携契約に基づいてDCを案内する「販売パートナー」制という形態が散見されだしました。販売パートナー自体は士族事務所だったり保険代理店であったりするのですが、どこまでしっかりと案内できているのか、おそらく金融機関も全貌を把握することは困難ではないのかと思ってしまいます。また選択制DCについては社会保障審議会・企業年金部会でも懸念材料の1つであり、選択制DC反対論者もいることでしょう。さらに確定拠出年金における選択制DCと同様に、確定給付企業年金(DB)を活用した「選択制DB」が企業へ浸透しつつあることはご存じでしょうか? どちらも老後資産形成に有用な手段を提供するわけですが、使い方によっては企業年金が本来目指すべき目的から逸脱していると思わざるを得ない使い方をしているケースも散見されだしました。
そこに今回の年金改革法案です。
さて…これまで選択制DCが選ばれてきた理由は主に3つに分類されると考えます。
1)マッチングとの比較において
❶事業主掛金を超える個人掛金(加入者掛金)が拠出できて、マッチングに比べて効果的な資産形成が可能に
❷上記と同様の理由でマッチングに比べて、より大きな節税効果が期待できる
❸マッチングでは不可能な「社保料軽減」が労使で実現
❹希望者加入制が可能
金融機関により呼称は様々ですが、給与の受け取り方を選択できる「選択枠」である退職金前払制度を工夫した方法が選択制DCです。要は個人が給与から積み立てる手法であり、セミナー等では「令和版の進化系財形貯蓄」と呼んでいます。事業主は一切掛金を拠出せずに「希望者だけが加入すればOK(希望者加入制)」という形態もあり、例えば30人の従業員がいたとして、結果的に「役員2名だけが加入する(積立する)」ということが可能に。給与から拠出するのであればiDeCoでよいのでは?と思うかもしれませんが、拠出金上限がiDeCo23,000円なのに対し企業型DCは55,000円でこちらに軍配。もちろん選択制DCですから、給与(役員報酬)の額面が掛金分低減し、社保料、税額の軽減に直結します。よって社保等級の低減があまり見込まれない役員も税率が高いために、節税効果を重視して「より多くの掛金を拠出できる」企業型DC(選択制DC)を選択する方向に。
2)iDeCoとの対比において
❺拠出可能額が大きく(23,000円VS55,000円)、より大きな資産形成効果が期待できる
❻上記に起因してiDeCoよりも大きな節税効果が期待できる
❼iDeCoでは不可能な「社保料軽減」が労使双方で期待できる
今回の年金改革法案におけるDC改正内容は、図らずも(だと思いますが…)上記❶❷❺❻を無力化する兵器となり得るのです。その理由は下記です。
1)マッチングにおいては事業主掛金を超える加入者掛金を認めるため、62,000円の掛金上限までフル活用できることになり、❶❷は選択制DCの独壇場ではなくなります。
2)国民年金の2号被保険者におけるiDeCo掛金が「23,000円⇒62,000円」と過去最大の上げ幅であり、企業型DCと同額に。こうなると「節税」観点ではiDeCoと選択制DCが横一線。この段階で❺❻も無力化。
こうなると残りは❸❼の社保料軽減と❹の希望者参加制。今後はこの要素をどう考えるかで確定拠出年金における「企業型or iDeCo」、企業型の掛金プラン選択における「マッチングor選択制」が決まります。
1)❸❼社保料軽減
確かに魅力的なワードですが、制度目的の本筋ではありません。また「額面給与」が低減する仕組みであることから、細かな留意事項が山積します。マッチングに比べ、従業員向けの説明会も30分~60分は多くの時間を要します。そうなると、DC法とミスマッチになる懸念もないマッチングに安心感があるこは否定できません。「社保料軽減」より「福利厚生の充実による人材採用・定着」が採用理由の上位になりつつある傾向の中で、マッチングを選択する企業がこれまでよりもかなり増えるだろうと考えます。
2)❹希望者参加制
これについては「iDeCoプラスとの比較」も増えてくるでしょう。選択制DCは企業型なので、iDeCoに比べると高いランニングコストを企業が負担しますが、その分をiDeCoプラスの掛金補助に回すという考え方もあるだろうと思います。また従業員にとっても「選択制DCの社保料軽減」と「iDeCoプラスにおける年間補助」の比較をすべきかと。加入者にとって社保料軽減分は、おそらく「いつの間にか生活費に紛れて消えていく」存在かとも思いますが、iDeCoプラスの掛金補助額はiDeCo口座に入金されるため、しっかりと運用に回せます。もちろん、iDeCoプラスの場合は「社保料軽減」という企業にとって「足元のメリット」はありませんが、「わかりやすく」「節税も体感しやすい」iDeCoプラスは優れた福利厚生であり、企業価値の向上にもつながっていくものと考えます。
さらにコストの見地ですが…
企業型DCがイニシャルが5万円~30万円前後、2名でもランニングが年間6万円~15万前後である一方、iDeCoはイニシャル1名2,829円、加入者1名当たりのランニングは年間1,800円程度~高いところでも7,500円程度。圧倒的な差ですね。「同じ節税効果ならiDeCoで十分」と「役員2名加入」などの場合は判断されるでしょう。
思うままに書きましたが、今回の年金改革がこれまでの一連のDC改正と大きく異なるのは、実質的に「現状の否定」要素を含んでいる点です。販売パートナー制度も含めて、数年後には業界の構造も変わっているかもしれません。
果たして、今回の変更が「選択制DC抹殺」となり「マッチングの逆襲」となるのか、しっかりと見極め、「顧客にとってよりよい選択はなにか?」を考えていきたいと思います。
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